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「ワカメは素直で賢くてホントいい子に育ってくれた…カツオなんかとは大違いだ。」
「そうだね…ワカメは偉いよ、中学教師だもんね、父さんあんまり興奮すると身体に障るから。」
カツオはベッドから降りようとする波平を穏やかに制止させた。
「ワシはワカメの幸せだけが何よりの生き甲斐だ。」
「………」
カツオは志半ばにして誰一人予想だにしないこんな病魔に侵された父波平が不憫でならなかった。
父には目に入れても痛くない愛娘のワカメに今まさに何が起こってるか等知る由もない。
病魔に侵される以前から貧乏でも構わないから人の道だけは絶対に外れるなとずっと言い聞かされて来た2人にとりワカメの妻子ある男性へのストーカー騒動はカツオにとり胸を鋭い矢で居貫かれんばかりの想いであった…
「ワカメに逢いたいのぅ、ワカメに…」
「…分かったよ父さん、ワカメに言っておくから、今日はもうお休み、ね?」
カツオに促され波平はようやく落ち着くとベッドに横たわって今度はぶつぶつと般若心経を唱え出した。
カツオは波平には声をかけずそのまま病室を立ち去った。
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