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(ワカメや父さんの心配してる場合じゃないんだよ僕だって!)
病院を出るとカツオは携帯を取り出し受話器を耳にかけた。
《ピー…お客様のおかけになった番号は電波の届かない場所にあるか電源が…》
カツオは携帯電話を畳みハァ~とため息をつくとアパートまでの道のりをとぼとぼと歩き始めた。
(カオリの奴…)
カツオは最近までかもめ第3小学校時代からひそかに憧れていたカオリという彼女がいた。
カオリと付き合い始めてちょうど10年目の先月、カツオはカオリの方から一方的に別れを告げられていた。その理由は至って簡単な事だった…
表向きは仕事が忙しくなったからというのが彼女の言い分だったがカツオにはカオリの本心が手に取るように解っていた。
彼女は何年経っても薄給で先のビジョンが全く見えない野心のカケラも無くしたこの自分にほとほと嫌気がさしたからに違いなかった。
(せめて話くらいさせろよな…)
カツオは一人何かに苛立ちながら今夜はこの殺風景な夜の街をただあてもなく歩こうと決めた。
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