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浮絵は微かだが泣いていた…少なくともカツオにはそう見て取れた、どうして?自分は何か傷付くような事を浮絵に言っただろうかとカツオは胸中でその言葉を探した。
「浮絵さん…何かあったんですか?」
カツオはまたあのレンタルビデオ店の夜のやり取りを思い出していた。
おそらく浮絵はカツオの何気ない言葉の端々からあの時の出来事をリンクしているに違いない、カツオはそう確信した。
「浮絵さん…好きな男性居るんですか?」
「………どうして?」
浮絵はカツオになるべく顔を見られないような角度で返事をした。
「実はこないだ…見ちゃったんです…」
「………」
暫くの沈黙が走った。
「そっか…見てたんだ…あのスクランブル交差点の夜の…」
浮絵はフゥ~と息を吐くと気持ちの整理をしたかのようにゆっくりとカツオを見た。
「いるよ!」
「はぁ…?」
「だから居るよッ、好きな人!」
浮絵は唇を真一文字にしてカツオにそう言葉をかけ笑った。カツオの脳裏には真っ先にあの手を振りほどかれた男性のシルエットが浮かんだ。
「そう…っすよね…ハハハ、浮絵さんが好きになる人なんだからきっと素晴らしい人でしょうね!」
「どうしてそうやって決めつけるの?」
浮絵は鞄から定期券を出すと自動改札機に当てた。
「私の好きな人はみんな完璧で素晴らしい人間じゃなきゃダメなの?」
「浮絵さん…僕はそういう意味で言ったんじゃ…」
「私の好きな男性はどうしようもないロクデナシ、それがいけない?」
浮絵は改札機の向こうからカツオにそれだけ言うとカツカツとヒールを鳴らし階段に消えて行った…
(う…浮絵さん…)
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