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《カツオ君じゃないか久しぶりぃ~ッ!》
篭った声で勢いよく応対に出た伊佐坂甚六はカツオの声を聞くとさらにトーンが上がった。
「お久しぶりです甚六さんッ、伊佐坂先生の三回忌以来ですっけ?」
《そうだよそうだよカツオ君ッ、水臭いじゃないか!十吉も淋しがってるぞ。》
「十吉かぁ…もう大きくなってんでしょうね。」
カツオは甚六が家で飼っている愛犬の事を思い出していた。
十吉とはカツオが伊佐坂家の庭で小学生時代に可愛がっていたあの愛犬の3代目にあたる孫犬で今は十吉の父親である《九太》と共に呑気に暮らしていた。
「そんな事より甚六さんッ、一昨日から浮絵さんと連絡が取れないんだけど何か聞いてない?」
《浮絵と?…はて、さて…別に何も…あッ!》
「えッ、何か知ってるの?」
カツオは甚六の反応にピクリと眉を上げた。
《そりゃカツオ君ッ、浮絵に電話してもいない訳だ!》
「どういう事?」
電話の向こうでキャンキャンと犬の鳴き声がする…
《浮絵は昨日の朝早くに来月に行く予定だった博物館の地質調査が早まったとか何とか言ってカナダに飛んだから、そういえば電話掛かって来たの忘れてた…悪ぃ悪ぃアハハ!》
「カナダに…そうなんですか…」
カツオは道理で電話が繋がらない訳だとため息をついた。
《2、3週間は帰らないって言ってたぞ?》
甚六は今から葬儀あるから切るねと電話を切ってしまった。
(浮絵さん何が言いたかったんだろ…)
海外なら聞く訳にもいかずカツオは仕方なくまた職安の資料を閲覧に行った。
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