2076人が本棚に入れています
本棚に追加
人は社会的な生き物だ。
どこかで聞いたことのある言葉が、遠くから聞こえる様々な声と重なり合う。
兵士も民も、男も女もが一緒になって動いていた。
数十人が力を込めて、ようやく一つの瓦礫を除けている。
「あ…………」
そこにもあった。
新しく芽生えた、命の緑が。
小さな蕾をつけて、それは開花の時を待っている。
人々が顔を見合わせているのを見て、つい、口元が微かに緩む。
「あれから――もうずいぶん時が経ったような気がするのに」
セントダリスの王城は半壊し、もはやかつての壮麗な姿は見る影もない。
全てが失われた今、ふた月程度の時間では、城下の整備さえままならないのも、致し方ないことなのかも知れない。
「皆さん、一体となって動くように」
兵士が声を張り上げている。
瓦礫一つを除けるにも、何十人という手が必要になった。
数少ない重機の類も、この世界ではもう、何一つ動かない。
更地になったような城下を避けて、車椅子を押して森へ向かう。
そこは、かつてセレスが好んでいた場所だった。
疎らになった、木々の隙間。
それでもそこは、多くの目から守られるように、ひっそりと存在している。
上から見れば、そこはきっと、ぽっかりと、空が見えるように抜けていた。
「あ…………」
そこには、忘れられたように墓がある。
横一列に並んだそれぞれに、たった一輪ずつの花が添えられている。
「あぁ、アーノルドの――」
「いいんですか? こんなところで、道草なんて」
四つの墓が並んでいる。
そこに花を添えたのは、きっとこの人なのだろう。
ガタがきていて軋む車椅子に難儀しながらも、私はやれやれと苦笑してしまっていた。
人のことは、言えないくせに。
――――あれから。
様々な生態系の変化が訪れた。
草も、花も、貴重――というよりも、未知に過ぎて、国から注意勧告が出されている状態だ。
それでもどこからか摘まれてきた花は、やはり以前と変わらずに、緩やかに風に揺れる。
最初のコメントを投稿しよう!