―最終章―燦然の彼方に

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人は社会的な生き物だ。 どこかで聞いたことのある言葉が、遠くから聞こえる様々な声と重なり合う。 兵士も民も、男も女もが一緒になって動いていた。 数十人が力を込めて、ようやく一つの瓦礫を除けている。 「あ…………」 そこにもあった。 新しく芽生えた、命の緑が。 小さな蕾をつけて、それは開花の時を待っている。 人々が顔を見合わせているのを見て、つい、口元が微かに緩む。 「あれから――もうずいぶん時が経ったような気がするのに」 セントダリスの王城は半壊し、もはやかつての壮麗な姿は見る影もない。 全てが失われた今、ふた月程度の時間では、城下の整備さえままならないのも、致し方ないことなのかも知れない。 「皆さん、一体となって動くように」 兵士が声を張り上げている。 瓦礫一つを除けるにも、何十人という手が必要になった。 数少ない重機の類も、この世界ではもう、何一つ動かない。 更地になったような城下を避けて、車椅子を押して森へ向かう。 そこは、かつてセレスが好んでいた場所だった。 疎らになった、木々の隙間。 それでもそこは、多くの目から守られるように、ひっそりと存在している。 上から見れば、そこはきっと、ぽっかりと、空が見えるように抜けていた。 「あ…………」 そこには、忘れられたように墓がある。 横一列に並んだそれぞれに、たった一輪ずつの花が添えられている。 「あぁ、アーノルドの――」 「いいんですか? こんなところで、道草なんて」 四つの墓が並んでいる。 そこに花を添えたのは、きっとこの人なのだろう。 ガタがきていて軋む車椅子に難儀しながらも、私はやれやれと苦笑してしまっていた。 人のことは、言えないくせに。 ――――あれから。 様々な生態系の変化が訪れた。 草も、花も、貴重――というよりも、未知に過ぎて、国から注意勧告が出されている状態だ。 それでもどこからか摘まれてきた花は、やはり以前と変わらずに、緩やかに風に揺れる。
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