第二十四章、刻まれた足跡

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この世の終わりだ。 この世の終わりだ。 この世の終わりなんだ。 恐れることに、抗うことに、祈ることに、意味は無かった。 陽光煌く空が、そこにはあったはずだったのに。 襲われた恐怖に捕われ、だから人は、ただ呟くのだ。 これはただ、この世の終わりなのだと。 ――曇天は蔓延り、紫闇にくすんだ空がとぐろを巻いていた。 魔力の具現、霊光の反応たる雷は空に轟き、暗雲から暗雲へ駆け回るように、ひっきりなしに稲光る。 外側から中心へ大きく円を描いては、膿を抉り出したような煙雲は飲まれていく。 ――空が低かった。 雲が空を覆う天井のように降りてきて、その中心にだけ、穴が開いたように隙間がある。 その上には、その奥には何があるのか。 突如として出現し、空の一面を闇に染めた雲。 両国国境付近、マグナディア山脈を近くに控えた村落は、その物理的な近さ故に一際浮き足立っていた。 続いていた小競り合いから発展し、そしてようやく終えられた、第二次となる王帝大戦。 しかし、安寧は容易く不浄に飲まれ、すぐさまそのなりを潜めてしまう。 風の便りに聞く、セントダリス聖戦十字軍による、グランベルト王弑逆の事実。 敵か、味方か。信じていた守護の力を疑って、信じていた国の長を失って、国民は、何を支えに身を立てろと言うのか。 疑念と混乱は再燃し、両国間の情勢もが落ち着くことを知らないでいた。 そして、今――。 泥沼と化したこの世界、大陸全てを空へとぶちまけ、とかく力の限りに混ぜ返したような混沌が広がっている。 気味の悪い空だった。 そこからは巻き上げる風が轟々と呻りをあげ、そして零れ、振動となって暴力めいた音が落ちてくる。 あたかもそれは、化け物染みた声にも聞こえ、思わず耳も塞ぎたくなるほどで。 だが、そんな轟音も消え、ふと、速すぎる雲の流れも止まっていた。 寸刻の静寂も、混乱を噴出させる前兆でしかない。 ――何故、空に? 誰か、訳を教えて。 固まる空と、そうしてから響いた爆発音。 いや、違った。 ただその音が、爆発的なほどの大きさとなって、地面へ叩きつけられるように聞こえたに過ぎなかった。 空を切る飛来物。 人々は動揺に飲まれ、慌てることさえ忘れて叫んでいた。 或る者は空を指差し、また或る者は頭を抱え。 なぜなら、そうだろう――仕方ないだろう?   自問しては、人は自身の常識ばかりを守っていた。
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