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夜中、傍若無人な羽音に僕は眼を覚ましました。頭の上で蚊が血を吸おうとしきりに飛び回っていて、追い払おうと一度ならず腕を振り回しました。窓の外では雪がしんしんと降り積もり、――此処は雪国ではなくて東京から少しだけ離れた住宅地でしたから、なおのこと冬が身に染みていたのでしょう、どうでも付きまとう彼女を、疎ましげに眼で追いながら最後には諦め、彼女が寄り添うだけで何もしないときには静かに羽音を聞くぐらいはしてやろう、と思うようになりました。きっと彼女は僕の気持ちを知らず(そんな僕の気持ちなど知ろうともせず)、確固たる快感と充足を求めて僕の大切な肉の表面に唇を突き立て、つい僕は身体を横たえて沢山吸血してもらうことを望んだのです。
赤い血を腹の隅々まで満たして、満足げに身体を震わせていたそんな姿を眺めながら、辱めを受けた僕はふと、彼女の腹を潰したらどうかと、そのほうが彼女にとっても幸福なのではないかと、そんなことを思いました。けれども、この雪の中で子を産む彼女に、そんな惨めな姿に小さな情念を感じたのではなかったか、そう思い直すと、冬を隔てた窓を力一杯開け放ち、彼女の望む酷寒の中へ投げ捨ててしまったのです。……いいえ
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