いつしか小鳥は霧になった

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  小鳥はその手より飛び立った 陽射しの届かぬ雲のもと 自由に飛び回っていた   黒い雲はしかし 小鳥を取り巻き 青い空を見ることなく まばゆい光を仰ぐことなく そして小鳥は落ちてゆく ゆっくりと落ちてゆく   ……いつしか小鳥は         霧になった           〇       一人の犯罪者が歩く 腕は強固な鎖で繋がれ 囚人服は 罪の証拠を握っている 犯罪者は歩き続ける 暗いコンクリートの廊下を      「この虫けらを     どう処理すべきか」    裁判官共は議論する    「絞首刑にするか?」    「電気椅子にするか?」    「それはつまらぬ!」    「手足をぶった切れ!」    「生きながら     猛獣に食わせよう」    「もちろん、     観衆の目前で!」    処刑者共の議論は続く    裁判長が    ほくそ笑んで呟いた    「なんと刺激に     満ちたことよ……」   一人の犯罪者が歩く 自ら科した罰の  (私は秘密を知っている) 苦しい想いに耐えながら 彼は静かに歩き続ける 長いコンクリートの廊下を      「殺せ! 殺せ!」    群集が叫ぶ    群集が渦巻く    正義の旗を掲げ    群集が叫ぶ    暗殺しようと企てる男    一生呪ってやると    泣き叫ぶ女    その怒りの叫びは    一つも漏らさず    犯罪者めがけて    投げつけられる    そして黒い雲は    まばゆい陽射しを    霧に崩して    届かせることはなく
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