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あのあと俺たちはすぐに部活を切り上げ、この女子と話すために場所を近所の喫茶店に移した。(なんと移動はこの子の自家用車だ。親ではなく専属の運転手つきで、ザ・金持ちといったところか)
「わたくしたち神祇省は、妖怪や魔物などの魔性から国民を秘密裏に護ることが仕事です。わかっていますね、坂東市担当の神田リュウジさん」
「……はい」
突然道場にやってきた美人は、どうやら俺と同じ神祇官だったようだ。俺がたったひとりの部活の時間に亡霊相手に試合をしているのも、実は神祇省の一員として魔性のものたちと戦う訓練だったりする。
俺たちは「迷信的分野における様々な問題の解決」を。要するに霊能者のパワーアップ版のような――――しかも一般国民には存在を知られていない――――立場ってわけだ。
ちなみに、なんで高校生の俺がこんな職に就いているのは専門の中学校を出たから。さらに高官になる場合や特殊部隊に入りたい場合はさらに上の学校もある。
「ちゃんと話を聞いているのですか?」
「……ああ、大丈夫だ」
ふかふかなソファーに座っているはずなのに、道場の板張りの床で正座して説教を聞いている気分になる。とにかくこの女、説教くせえ。美女と向かい合って喫茶店でお茶なんて、普通ならラッキーなはずだが、今回ばかりはなんか嫌だ。
「街に異変がおこれば各地の寺や神社から、担当神祇官に連絡があるはずなのですが、とくに何もきてはいませんか?」
「きてねえよ。ここは今のところ霊的にはかなり安全だ。そもそも、お前はなんでこんな片田舎に派遣されたんだ?」
「……礼節のかけらもないその大きな態度はかなり癪に障りますが、まあわたくしも説明と自己紹介が遅れました。その非礼はお詫びしましょう」
「気にすんなって。俺も初対面にしちゃあざっくばらん過ぎたろうし」
だいぶ相手は機嫌を損ねてきたようだ。俺はどうにか場を暖めようと、フレンドリーに自分にも非があることを認める姿勢をとった。
「あら、意外と謙虚な一面もあるのですね」
少し頬をふくらませてぶすっとしていた少女は、少し表情を和らげた。よし、うまくいったみたいだぞ。
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