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半ば絶望しかけたその時、カランカランとベルが鳴って、かっちりとスーツを着こなした壮年の男性が入ってくる。
「玲菜お嬢様、車の給油を終えて戻ってきたかと思えば……いやはや」
「あら、ニコル。ハッ、わたくしとしたことが」
玲菜は運転手ニコルの困り果てた顔を見て、ようやく自分の暴走に気付いたらしい。ふう、よかった。
「お嬢様、対話がうまくいかぬというなら、このニコルがお手伝いいたしますぞ」
「結構ですわ」
「己の仕事に人の手を借りたくないという姿勢……だんな様そっくりですな。リュウジ殿、玲菜お嬢様は少々意地っ張りなところもございますが、根は素直な良い子です。お嬢様を、頼みましたぞ」
二コルさんはアメリカのドラマのように颯爽と手を振ってきびすを返した。長身に、オールバックの長い銀髪が黒いスーツに映える。なんかカッコいい。
「こ……子供扱いするなといつも言っているでしょう」
「はっっはっは、お嬢様はまだまだ子供で――――うわっはあ!」
「きゃあ! ごめんなさい」
歩きながら玲菜と俺の方を振り返ったニコルさんは、前方でイチゴのショートケーキを運んでいたウェイトレスと見事にぶつかり、埃一つついていないスーツとシワ一つないシャツを見事に汚したのだった。あーあ。
店員に「お気になさらずに」と言いながら慌てて車に戻るニコルさん。その様子を引きつった顔で眺めていた玲菜は、急に神妙な面持ちになった。
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