上之宮玲奈

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「話を本題に戻します。このたびは、『坂東市に異界とつながる穴が開く』という神託を受けてやって来ました」 「この坂東市に、異界の穴がねぇ」  言っちゃ悪いが、あきれかえるほど平和な街なだけに、にわかには信じがたい。しかし、真っ直ぐにこちらを見つめてくるマリンブルーの瞳に、きゅっと引き結ばれた桜色の小さな唇は、彼女がかなり本気であることを俺に教えてくれる。 「となると、まだ開いていないか、寺社仏閣が近くにない山のなかですでに開いているかってところか。さっきも言った通り、どこの寺からも報告はないし、俺自身何も気配は感じないからな」 「そのようですね」  異界とは、妖怪や魔物が住む世界のことだ。いつ開いてどんな連中が出てくるかはわからないが、玲菜の話を聞く限りでは、中央では開くタイミングをおおまかに予想できているのだろう。  ちなみに妖怪は日本、魔物は海外の化け物のことだ。異界といっても様々なようで、この日本に海外の伝承に登場する魔物が姿を現すことも多いという。他にも異界からは、自分の宗教や考えを他国に広めようとする天使や悪魔までやって来る。 「早速調査を開始しましょう。何かありましたらこちらへご連絡を」  玲菜が差し出したのは、メールアドレスと電話番号を書いたメモだった。 「りょーかいっ! これからよろしくな、玲菜」 「だ……だれがよろしくなどされてなるものですか」  メモを受け取ると、玲菜は突然顔を真っ赤にして、意味不明なことを言い始めた。冷静な普段に、止まらない説教バーサーカー状態につづいて、三つ目の顔。まさかこいつ、多重人格か。 「ふはははは! こやつめ、男から初めて下の名で呼び捨てにされたとみえる。初々しいのう、ふはははは!」  宙を舞っていたイケメン亡霊は、オヤジ臭い台詞をまき散らしながら延々と笑い続けていた。そんなに面白いか? この状況が。
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