天見愛流

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 照りつける太陽に、ソフトクリームのような入道雲。うん、まさに夏。だがそんなさわやかな夏の景色は窓の外だけのお話であって、俺は場所によってクーラーの恩恵を受けたりダメだったりする教室の中にいる。  明日から夏休みというだけあって、近づく部活動の大会に熱くなる運動部員や、旅行の計画を持っているやつなんかが話題を独占……というのが例年の光景なのだが。 「なあ、聞いたか?」 「天見のことか?」 「そうそう。あいつ制服だとかわいいけど、私服がコスプレみたいで変らしいぞ」 「ああ、なんか背中に羽までつけてよ。なんなんだろうな」 「おい、お前ら俺が愛流のこと狙ってるのを知ってて言ってるのか。愛流は俺の未来の嫁!」 「天見たんのコスプレ……ドゥフフ、見たいでつ」  ――――最後の二つは余計だったな。大方こんな感じのウワサでクラスはもちきりになっている。  天見愛流(あまみあいる)。俺のクラス二年一組の女子で、さらさらショートのストレートヘアと、アーモンドのようにぱっちり開いた目が印象的なかわいい娘だ。性格も元気で愛嬌がよく、人懐っこいのでクラスじゃ男子からも女子からも大人気の生徒なのだ。  ただでさえ話題にあがることの多い天見だが、「私服がかなり不思議」という要素の追加により、良くも悪くもクラスの話題を独占している。  クーラーの風直撃で、半そでシャツじゃ寒く感じる(しかも隅っこの暑い場所からは妬まれる)席に座って、俺は友達の話に耳を傾けていた。 「おっはよー」  噂をすれば影――――教室中で話題にされちゃあ避けようがないのだが――――何かのCMに出演でもしているような満天の笑顔で天見が教室に入ってきた。 「あれれ?」  その刹那、教室にいた全員が訓練された兵隊のように一斉に天見の方を振り返ったもんだから、天見は驚いてしまったようだ。 「愛流、ちょっと」  天見といつも一緒にいる数人の女子が、天見の手を引いて廊下の方へ出て行ってしまった。クラス全員からの質問攻めから天見を守ろうとしたのか、それとも自分たちが先に真相を知ろうと思ったのか、それはわからない。  天見の友人たちの努力あってか、本人から噂の真相が明かされることのないまま夏休みが始まった。
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