天見愛流

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 深い紺色のノースリーブのワンピースの下に青いシャツを着た姿。ここまではいいのだが、その背中には一つ30センチほどの白い天使のような羽がついていた。 「あれぇ、神田君じゃん」  さらさらのショートヘアを軽く揺らしながら振り返ったのは、教室での噂そのものの格好をした天見だった。  正面からよく見ると紺のワンピースとブーツには十字架を模したような白い模様がはいっており、下に着たシャツの襟も、通常のものより大きく作られている。 「お、おう天見。これから旅行か?」  コスプレめいた服で街を歩いているなんていっても、まあちょっとやりすぎた姫系か軽いゴスロリ服くらいだろうと思っていた俺は、まさかこんなにも作り物めいた、そしてアニメチックな服装で天見が現れるとは考えもしなかった。  どうにか平静を装い、俺は夏休みの初めにふさわしい話題をチョイス。 「旅行っていうより、帰省かな。隣の三笠町に実家があるから」 「たしかに、三笠から通ってるやつは多いけど遠いからな」 「うん。だからわたし、ひとり暮らししてるんだ。学校のある時も、週末たまに帰ったりするんだけどね」  教室で普段見せているような天見の笑顔が、少し憂いを含んだ微笑に変わった。 「お父さんの調子が少し悪くて。お医者さんをやってる叔父さんも来てるから安心だけど……」 「大変なんだな。実家でゆっくりしてこいよ」 「ありがとう。そろそろ行くね」  小さく手を振って、天見は再び駅に向かって歩きだした。 「服のことは……聞かなくてよかったよな」
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