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海岸線に迫るように低い山々の這う地形。ついさっきまで白い砂浜と青い水平線を窓から望めたかと思うと、すぐにトンネルや木々が窓に飛び込んでくる。
タクシーみたいにふかふかなシートに腰掛けて、坂東市の西隣りである三笠町を目指す。
「リュウジさん、よろしくて」
「ん、どうした玲菜」
助手席から後ろを振り返って玲菜が声をかけてきた。
「わたくしが東京を出発する前に聞いた神託は、あくまでおおまかな情報にすぎません。ですから、これから向かう三笠町に異界の穴があってもおかしくはないのです」
「わかった。もともと三笠町も俺の担当区域だし、その予想もあったよ。着いたら天見に聞き込みをするだけじゃなくて、寺に異常がないか聞いたり、怪しい場所を俺らであたったりしてみよう」
「それがよいですわね」
神祇官は特殊な能力を持つ集団なだけに数は少ない。俺のようにいくつかの市町村を掛け持ちしている者は日本中にいる。いくら異形の存在がこの世に現れることが少なくなった現代とはいえ、体ひとつでそれなりの範囲を防衛するのはかなりしんどい。
だからこそ各地の寺社の助けや情報提供は欠かせない存在だ。三笠町の寺からはまだ何も異常は報告されていないが、何らかの違和感をもっている可能性もある。
窓からの景色が再び海に戻ったかと思うと、車は集落へと入っていった。
町にはいってすぐに天見について住人に尋ねると、なんと天見の家はこの町の寺らしい。これは一石二鳥と、俺たちは町に一軒しかない寺院に向かった。
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