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「どうした、もう疲れたというのか?」
相手はニヤリと口元をつり上げ、微笑を浮かべた余裕の表情。絵にかいたような切れ目の日本的な美形から発せられる、こちらの心理を突き挑戦を煽るセリフがちょっと癪にさわるな。
一矢報いるとはこのことだ、俺も反撃開始ッ!
「でやあああああ!」
思い切り面を打ち込む。相手も同時に切り込んできたようで、お互いの小手先がぶつかり合う。
美丈夫の相手は、そのまま体ごと竹刀を押し当ててくる。俺は体を右に回転させて、竹刀を振り上げた。
「そう来るか」
相手が頭の近くに竹刀を構える。これは開いた胴を狙うチャンスだ。俺の竹刀はそのまま三日月の形に軌道を――――
ブスリ。
喉もとからすべての空気が抜けて激痛が走る。感電したように体は動かなくなって、暑さとは違う嫌な汗が、俺の皮膚をなめるのを感じた。もう立ってさえいられない。
「うぐう! げほっ、げほげほ」
「フフフ、隙だらけではないか」
「うう……ひでえ人間離れっぷりだな。しかも防具の隙間を狙うとはたちが悪いぜ、マサ」
あいつ……防御のために竹刀を横に構えた状態から、一瞬で突いてきやがった。完敗だ。
対戦相手マサは視線を外の山並みに流した。
その窓から吹き込むさわやかな風が彼の黒髪を撫でていく。なかなか絵になる光景だ。
しかしその人物に喉を刺され、あげく床に這いつくばった状態から見上げるのは屈辱。まったくもってやるせない。
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