マサ

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「人間ではないからな」 「だったら人間相手にむきになるなよ」 「あの程度、小虫を箸で払ったにすぎぬ」  窓の外に飽きたのか、こちらを見下ろすマサがいささか楽しそうなのは気のせいだろうか。  いや、その前に俺は確実にバカにされているな。  人間じゃないなんて平然と言うマサだが、それもそのはずだ。  マサの、白粉でもかけたような白い肌に、日本的な切れ目の美顔も、濡れたように艶がかった長い黒髪もまるで作り物のようだ。  剣の腕前も化け物じみて強い。(ちなみに俺だって剣道は三段。そこら辺の高校生くらいはイチコロな程度の実力はある)  さらにマサは全身を鎧で固めていた。それも、博物館のガラスケースの中でしかお目にかかれないような古びた、しかし豪華なものである。  顔に似合わずゴツイ体がさらにたくましく見える反面、今にも風化してしまいそうな物悲しい雰囲気を醸し出している。  手には竹刀が握られているが、腰にはなんと本物の太刀が提げられている。ぬばたまの黒髪の上には侍烏帽子(えぼし)までかぶっていて、なんとも大時代だ。  平安の絵巻物から抜け出したような……いや、あいつは正真正銘、マジで、ガチに平安か鎌倉あたりの武士が化けて出た存在だ。ユーレイ部員ばっかりの剣道部にただ一人マジメに通う俺は、本物の幽霊を相手にするしかないという皮肉の状況におかれている。  もっとも、幽霊なんかよりずっと恐ろしいものを相手にしなきゃいけない俺にとって、こうやって部活で訓練できるのはありがたいのだが―――― 「いつまで寝転がっておるつもりだ。我は戦と変わらぬ立ち合いをしたつもりだから構わぬが、貴様は剣士としての礼も忘れたのか」 「わ、わかってるさ」  軽くむかつくが正論なので、慌てて起き上がる。
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