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「だあーっ、何も考えてねーっての!」
マサに叫ぶも、彼はこのリアクションを待っていたといわんばかりに激しく笑い出した。
「フハハハ、不審者というやつだぞ。貴様はあの少女の視点で言えば、『突然後ろを向いて叫ぶ男』なのだ。これは傑作」
しまった。俺には幽霊その他が見えるが、この子には見えていない。声も聞こえていないはず。
「あ、あの……今のはなんていうかその……」
今ならまだ弁解の余地があるはずだ。女子の方に向き直った俺は声色を明るくして話しかけた。だが言葉がつづかない。マサの奴は調子に乗って、派手な扇まで広げて笑っている。
やばい、これはやばいぞ。
背後で響くマサの高笑い。いや、バカ笑いを無視しつつ、ゆっくりと少女の表情をうかがってみる。
細い眉はつりあがり、海のような目は見開かれている。驚いているのか、それとも怒っているのか。
「嘆かわしいですわね。神祇省の神祇官たるものが、あやかしにもて遊ばれているなんて」
この一言に後ろのバカ笑いはピタリと止み、俺は背中に氷を詰め込まれた気分になる。
そう、彼女には全部見えていたし聞こえていた。しかも知っていた。
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