どうか 君と

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保健室に先生は不在だった。 一ヶ所だけ閉めてあるカーテンのすき間から寝顔が見える。 カーテンの静かに開けて、ベッドの横に屈んだ。 日差しが白いシーツに反射して眩しい。 日陰が顔を青く見せて、かなり具合が悪いんじゃないかと思った。 「瀬奈?」 名前を呼ぶと、瀬奈はゆっくりと、目を開けた。 「え?何で?いるの?」 瀬奈は布団を顔の半分までたくし上げる。 驚いているけど嬉しそうだ。 さっきまでの苛立ちはすっかり消えていた。 「教室で聞いた。もう昼休みだけど、大丈夫か?」 「うん、大丈夫。ちょっとお腹痛かっただけだから。もう治ったよ」 大丈夫と言ってはいるが、まだ辛いのだろう。 顔色が良くない。 「気持ち悪い?」 目を覗き込むようにして問えば、恥ずかしそうに目を伏せる。 やや間を空けて、か細い声が聞こえた。 「…ん…頭痛い…ちょっと……」 こういう時の上目遣いはいけない。 「無理すんな。昼、食える?」 「…いらない」 俺が小さく溜め息をつくと瀬奈は目を反らした。 「駄目だろ。少しぐらい食わないと治らないじゃん。大体お前少食過ぎる」 だからそんなに細いんだ。 もう少し太ればいいと思うくらい。 …これを言ってかなり怒られたことがあるから言わないが。 予想通り、瀬奈は顔を出して言い返す。 「そんなことない」 「あるよ。持ってきてやるからさ。ちょっと待ってろ」 そう言って、俺は立ち上がって出ていこうとした。が。 「待って」 瀬奈の声とともにガシッと服の裾を掴まれ、立ち止まった。 首だけ振り向くと、瀬奈は手を放すことなく起き上がる。 瀬奈は申し訳なさそうに俯いて言った。 「あの、あのね、誕生日おめでとう。…ごめん遅くなって」 昨日は熱出ちゃって 本当にごめんなさい。 小さな声で謝る瀬奈を愛しいと思った。
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