9月20日

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湊さんは荷物をまとめ、玄関にやって来た。 元気のない顔だ。 心配なので湊さんの家まで送ることにした。 バスに乗って移動する。 湊「ごめんなさい……こんな形で終わってしまって……」 京「いえ、そもそも俺が一人で生きて行けば良かっただけの話ですし」 元々は俺が自分でなんでもやれたら良かった。 そしたら湊さんも体調を崩さずにすんだ。 湊「夜ご飯……どうするんですか?」 京「適当に作りますよ」 さて、何が作れたっけ……。 湊「本当にごめんなさい……」 京「もう、謝りすぎですよ」 湊「ごめんなさい……」 京「………」 ここまで元気のない湊さんは初めてだ。 とりあえず手を握ると、少し元気が出てるように見えた。 湊「ここで……いいです」 湊さんの家の前に来て言われた。 ここまで来ておいて、「ここでいい」はどうかと思う。 京「倒れないで下さいね?」 湊「心配しすぎですよ……」 力なく笑う湊さんの顔が痛々しく見えた。 そんな顔されたら離れたくなくなる。 京「何かあったら電話して下さいよ?」 湊「何かあったら電話して下さいね?」 お互いにあっ となり、笑いあう。 考えてることは同じみたいだ。 おかげで少し安心出来た。 湊「じゃあ、また明日です」 京「はい、また明日」 お互いにまた明日、と約束をして湊さんがドアに向かった。 ドアの取っ手を引く寸前でこっちに戻って来た。 京「どうかしまし―――」 瞬間、唇を唇で塞がれた。 長いキスだった。 近所の方だろうか遠巻きに見て目を見開いていた。 見せ物じゃないぞ。 やがて名残惜しそうに唇が放れた。 湊「京助君……」 京「ん?」 湊「どんなことがあっても京助君のこと、好きですからね……」 俺を抱き締めながら耳元で囁く。 変なことを言うな……。 京「そんなの分かってますよ」 湊「そ、そうですよね……何言ってるんだろ私……」 スルッと抱き締める力が弱まる。 湊「今度こそ、さよなら」 京「また明日」 手を振って湊さんが、ドアの向こうに消えて行った。 そして……次の日、 俺は湊さんがどうして変なことを言ったのか…… 二回目の別れの挨拶が“さよなら”だったのか…… 思い知ることになるとは思わなかった。
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