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トントンと右肩を叩かれ、浅賀莉子(あさか りこ)は反射的に振り向く。
それと同時に右頬に感じたのは、柔らかく尖ったものの感触だった。
「引っ掛かったー」
「………松雪先生……」
莉子の頬を刺すように触れていた指が離れたのは、自分に向けられた視線が冷たいことに気付いたからだろう。
松雪と呼ばれた白衣の男は、小さく笑い飛ばしながら莉子を見下ろした。
莉子は高校2年生にしては身長が低いため、彼を見上げることで高さの差を改めて自覚した。
彼――松雪東(まつゆき あずま)は、莉子の通う佐南(さなみ)高校で生物を教えている、26歳の若い教師だ。
接しやすい雰囲気や分かりやすい授業などから、松雪は生徒に人気があるのだけれど。
「莉子、渡せって言われてたプリント。井草先生から」
「……莉子って呼ばないでください」
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