好きでもないから

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 本当に教師かよ、と言いたくなるような松雪の発言は華麗にかわし、莉子は眉を顰(ひそ)めて呟く。  だから嫌いなんだ、と心の中で悪態をつきながら。 「浅賀って言うと、葵の顔も出てくるんだよな」 「葵のことを浅賀って呼んでたわけでもないのに?」 「まぁ……そこはね」  葵(あおい)というのは、莉子の兄であり佐南高校の卒業生でもある。  松雪が新人の教師として佐南に来た年に、葵もここに入学した。  葵は一昨年に卒業してしまったのだが、"松雪は良い教師"という葵の言葉を信じた自分が馬鹿だったと、莉子は激しく後悔している。  葵が松雪を良く評価するものだから、莉子も見てみたいと思ってしまったのだ。  それが、実際にいたのは教師らしくない子どものような大人で。  莉子の苦手なタイプを固めたような人だった。
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