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ビルの屋上に男。
今にも飛び降りんとしていた。
誰かが屋上にやってきた。
「やめて!」
誰が叫んだのかは知らないが、これ以上人の言う事を聞いたらせっかくの気持ちが揺らいでしまう。
そう思った男は、覚悟を決めて、飛び降りた。
ほんの数秒のはずだった。
だが、彼はいわゆる走馬燈という物を見ていた。
彼はそれを走馬燈と知り、冷静になって眺めることにした。
よく事故なんかで、死に近付く時、時間が遅くなったように感じることがあるという。
俺は今その状態なんだろう・・いいだろう、最期だ付き合ってやるか。
男は目を閉じてそう決心した。
それはやはり幼い頃の記憶から始まった。
しかしこの自殺する男が見たいようなものではなかった。
彼は子供の頃からいじめられて生きてきたのだ。
もちろん、今見ている走馬燈も、その時の記憶だ。
地面はまだ遥か下。
早く・・死なせてくれ
男はそう祈った。
走馬燈は続く。
高校に入ってもいじめは続いていた。
彼の人生は、苦しかなかった。
落ちてスピードが増す程、彼の感じる時間は、ゆっくりになっていった。
スライドショーのようだった走馬燈が、動画を見ているかのように、細かくなってきた。
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