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出産を間近に控えた女がいた。
初めての子供に、不安と喜びを抱き抱えて日々を過ごしていた。
「たっくん、早く私に会いに来てね」
しかし、出産予定日を何日過ぎても、赤ん坊は産まれる気配を見せなかった。
さすがに心配した医師が、帝王切開などで無理矢理出そう、と提案したが女は断っていた。
子供が出たくないと言っているのに無理に引っ張りだしたくない、それに私の体はまだ大丈夫です。
そう言って聞かなかった。
そして更に何日か経ったある日、体の健康を理由に、医師の反対を押し切って退院してしまった。
もちろん、お腹の中に赤ん坊を宿したままで。
どうみても異常な事態だったが、女は子供の事を誰よりわかっていたのだ。
そして、二人で出した結論がそれだったのだ。
驚いたのは夫のほうだった。
子供を産まないまま退院した妻を見たらそれもそのはずである。
最初は心配から病院を勧めていたが、妻の悟った顔を見続けるたびに、ついに諦めた。
女は、毎日お腹に向かって話しかけていた。
今日は公園で同い年の子にあって楽しかったね、とか、言葉がわかるようになったかしら、等といったことだ。
既に出産予定日から一年が経っていたのだ。
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