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夫には不気味がられて、逃げられてしまった。
しかし、生活するには実質一人なので、毎月送られるわずかな慰謝料がわりの生活費と、内職でなんとかやっていけた。
それでも赤ん坊は出てこない。
本当は顔を見たいけれども、仕方ない。
そう女は思っていた。
もしかしたら、この子はこの世に産まれたくは無かったのに無理矢理宿してしまったんじゃないか、とまで考えていた。
子供が予定通り産まれていれば、今頃は小学校に入学している頃だ。
等とふと子供のはしゃぐ声を聞くと思う。
でも悲しくはない、お腹の子供ははしゃいでいるし、ちゃんと女のもとで学んでいた。
いつ出て来れてもいいように。
それから十数年が流れた。
女は逃げるように引越しを続けながら、お腹の子供を育てていた。
もう子供もお腹の中で反抗期を終え、大人のようになっていた。
それでも出て来ない、そればかりか、女が話しかけても何も言わないようになってしまった。
それでも女は育て続けた。
子供が向き合ってくれる日を待ちながら。
現実でもいい、お腹の中でもいいから・・。
そしてさらに年月は過ぎ、女は年老いていた。
子供はもちろんお腹の中だ。
もしかしたらもう出るタイミングを無くしてしまっていたのかもしれない。
一つの体に二人分の命の代償は大きく、年老いたといってもまだまだ若い女は一人静かに息を引き取った。
誰にも看取られることはなく。
お腹の中では、三十路を向かえた子供が、お腹を空かせて黙っていた。
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