ジャパンデミック

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今年も辛い季節がやってきた。 テレビも暖房もない寒い部屋で、がたがた震えている男はそう言った。 お金も底をつきそうで、嫌々ながらも久し振りの外に出る。 日雇いのバイトに行かなくては、身も心も寒さで死んでしまうだろう。 外に数ヶ月前の活気は無く、人々はマスクをつけて苦しそうに俯いていた。 今年の風邪もやばいんだなあ なんて男は他人事のように呟いていた。 しかしどうやら。 呑気なことも言ってられないようだ。 町行く人、全てと言っていいほどの数の人が、風邪に掛かっているらしかった。 今までに無いほどの感染力の高い風邪が流行っているらしい。 男は帰りたくなったが、お金がない。とりあえず仕事場には向かわなければならなかった。 現場も同じだった。 警備員のバイトなのだが、デパートの店員、同じ仲間の警備員、全員が風邪をひいていた。 「おはようございます」 「ゴホンゴホン!おはようズビビ・・ございます・・あらあなたは風邪ひいてないんですね」 「ええまあ・・体だけは丈夫なもんで・・」 「そうではなくて・・まあ、そういう人もいますかね・・ゲホゲホ」 そう言い残して、警備員はあがってしまった。 どうやら元気な男は希少らしい。 男はなんだか急に誇らしくなり、仕事が終わったあと、外をぶらぶら歩いて、健康体を自慢することにした。
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