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「会社首になったかもしれない・・」
話の上手い彼にしては短い言葉だ。
とりあえずビルの中の人気のない静かな場所で話を聞くことにした。
非常階段ならいいだろう、とAは彼を誘った。
彼はぼそりとした口調で語りはじめた。
いつも嫌味を言われている上司がいるらしく、その日も嫌味を言われていたらしい。
彼は言われた嫌味も再現していた。
段々友人の気持ちが乗り移ってきたA。
うなずきながらも彼のイライラは募っていった。
そして彼は口調を変えてこう言った。
「そしてつい・・そのイライラを衝動的に」
彼が言い終わる前に、Aはその話の続きを行なっていた。
つい、手を出してしまったのだ。
もはやAの目の前にいるのは、嫌味を言う上司なのだ。
荒い息遣いのA。
しばらくしてふと我に帰って気が付いた。
「わああ!大丈夫か!?」
先程まで話していたAの友人は、階段を転げ落ちて倒れていた。
Aが駆け寄って、話しかけても返事がない。打ち所が悪く、死んでしまったのかもしれない。
いや、彼は手をピクリとさせた。生きていた。
ほっとするAに、彼は最期の力を振り絞って、こう語った。
「今、階段を落ちた時の話なんだけどさ」
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