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胸の前に作った右の拳を包み込むようにして左手を重ねた。
砂礫の大地。夏だと言うのに周りの雑草は弱弱しくこうべを垂れて枯れていた。
一歩踏み出すと、じゃりっ、という音と共に砂埃が舞い上がる。
目指すは目の前の断崖絶壁。
例えるならベタなサスペンスドラマのラストシーンで使われる様な――そんな場所に私は居るのだ。
崖の下は勿論、海。
更に付け加えるなら此処は自殺の名所。
華麗に海へと飛び込んで、人魚姫の如く海の泡となって儚く消えられれば良いのに。
せめて、気分だけでも最期は悲劇のヒロインに――いや、もしかしたら喜劇のヒロインかも。
……………。
浮かんだ考えにちょっと落ち込んだ。嗚呼、哀しきかな私の人生。
沈み込んだチキンハートを必死に繕って再び崖の先へと挑み始めた。
強風に煽られて乱れきった髪を直そうともせず、ただただ私は突き進む。私の願いを叶える為に。
輪廻転生なんか信じゃちゃいなかったけど今から信じるから!だから、どうか、次の人生は幸せでありますように……。
崖の先端に着いた。
遠く見えるは水平線。見下ろせば気泡をあげながら渦巻く海流。
雲の白、渦の白、空の青、海の蒼。
全ては澄み渡っていた。
嗚呼、
こんな日に死ぬのも良いかもしれない。
歯を噛み締めて、地面を踏み締めて。
ごうっ、と唸るあの広大無辺の海へと身を投げるのだ。
…………うん。
それは分かってる。分かってるよ?もう決めた事だしね。でも、でも……―――――
足が竦んで動かないってどーいうことですか……!
ぶっちゃけちゃうと物凄く恐いんですよ、今。
音に訊くは海水と岩肌がぶつかり合う轟き、目に見えるは海底へといざなおう待ち構える渦潮。
そして周りを見渡してみれば"命は大切"とか"私達に一度ご相談ください。 ― 教会 ―"だのという自殺を阻もうとする看板が立ちはだかっていた。
簡単に揺らぎ始めた私の心。飛び込むのはやっぱ恐い……、し、もうちょっと頑張ってみようかなぁって気にもなってきた。
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