社交辞令

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梅雨が明けたと思ったら、もう明日からは夏休みだ。 長々くどい担任の『生活態度についての注意事項』を聞いて、成績表をもらったら、挨拶をしてみんなが散って行く。 あたしは少し溜めてしまった机やロッカーの中身を詰めた鞄を肩に掛け、教室を後にする。 小宮くんの声はまだ背後から聞こえた。 他のクラスメイトに掛けた『またな』を、自分の中で返す。 「あーっ! 高田さん!!」 あたしの心で『バイバイ、またね』が終わらないうちに、小宮くんの低い声があたしを呼ぶ。 軍隊みたいな回れ右して教室を見ると、あたしを呼んだ声の主はもうすぐそこにいて、あたしはそのタワーみたいな彼を見上げた。 「高田さんだけなんだけど…」 あたしは提出物を出してないとか、そういうことかと思って、重い鞄を床に置く。 「初メールとか、初コールとか。俺的に待ってるんだけど。」 全く違う要求に、あたしは鞄を探ろうと屈んだまま、もう一度見上げる。 「夏休みなんかさ、会うことなかなかないんだし、俺暇だからメールくらいしてよ。デコメとか期待してますんでー。」 あたしのポケットから落ちてしまった学生証を拾い、同じように屈んだ彼は笑う。 悲しいことに、あたしは素直に笑い返せなくて。 ぶっきらぼうに学生証を受け取ってしまった。 自分の中の自分が、『バカバカバカ』って自分を叱って、なんとかあたしはお礼を言えた。 「約束なー!」 鞄を肩にかけ直し、あたしはそう叫ぶ彼に頑張って手を振った。
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