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小宮くんに会えなくなることが寂しくて、待ってなんかいなかった夏休み。
あたしは予定もないのに、普段よりも早く起きた。
でも…そんな浮かれた毎日も続くはずもなく。
あたしは夏休みが半分過ぎても、彼にメールすら送れないでいた。
何て送ればいい?
『初メール』
件名を入力しては、机に伏せる。
その先が打てない。
まるで本文を入力したら、もう終わってしまうんじゃないかって。
彼の頼みは『社交辞令』かもしれないから。
話すこともないあたしなんかに、彼があんな言葉を掛けてくれたのは、『携帯番号を交換してしまった社交辞令』。
それなら送らないでいれば、彼はまた新学期に話し掛けてくれるかな。
ウダウダしているあたしの目の前に広がる空は曇り。
今にも泣き出しそうなグレーに、自分が重なった。
「タマ、久しぶりぃ!」
毎年恒例のお盆の帰省。
あたしは携帯をずっと握り締めたまま、おばあちゃんちにやってきた。
おばあちゃんちには、飼い主と同じように年を取った猫がいる。
もう15歳。
なかなかの貫禄であたしたち家族を出迎えたタマを抱き上げて、あたしは縁側に座る。
相変わらず空は曇り。
それでも泣き出さないのは、どうして?
空に向かって聞いてしまう始末。
『小さな期待してるからじゃないの?』
空は少しだけ太陽を覗かせた。
あたしが作った日陰にタマはゴロリと寝そべっては、この蒸し暑さにだらしない顔をする。
あたしはそんなタマが面白くて、携帯のカメラに収めた。
周りの友達の待受画面は、彼氏とのツーショットが増えてきたというのに、あたしの画面はプリセットのペンギン。
ツーショットは疎か、小宮くんの写真もないし。
あたしもタマの隣にグダんと寝転がって、さっき撮ったタマの写真を見る。
たまに覗き込むタマにも見せたりして笑って、虚しくなって。
今度は庭のヒマワリに目をやって…
ヒマワリは薄日に向かって懸命に伸びていた。
あたしはヒマワリに背中を押されるように、携帯をメール作成画面を開く。
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