片道バス

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夏休みは、半分凹んで半分笑ってた。 小宮くんとは毎日のようにメールして、タマの写メをいっぱい送った。 たまに送られてくる彼の写メには、彼の愛猫『パト』が写ってた。 それと、彼がパトを抱く腕。 まじまじ見たら、血管の筋が見えて。 やっぱり手の感じも好きだと思った。 『パト』の由来は、体が半分黒くて半分白いから。 パトの前にもう一匹飼っていたけど、事故で亡くしちゃって、大泣きした。 パトを拾ってきたのは小宮くんで、親に『誕生日プレゼントはいらないから、この猫を飼いたい』って言った。 だからパトの誕生日は、彼と同じ10月3日。 彼のこと、この夏休みでたくさん知った。 少しは近くなれたかなって、まるで初めてメールを送る前までのモヤモヤがいっぺんに飛んだ。 「おはよ。」 「久しぶりぃ~」 また新学期が始まって、久しぶりに生徒が集まった教室はいつも以上にざわつく。 真っ黒に日焼けした元田くんは、夏休みもずっと部活三昧だったと愚痴をこぼしている。 小宮くんは変わらない。 それも知ってる。 『予定がないから、新作のゲームばっかりやってる』 ってメールを貰ってたから。 「高田さん、おはよ。」 「お、おはよう。」 あたしが席に着くと、彼は遠くから手を振った。 あたしは小さく振り返して、また持ってきた重い鞄から出した荷物を机やロッカーにしまい込む。 夢なら覚めないで。 あたしはロッカーの扉を閉めながら、深呼吸した。
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