9人が本棚に入れています
本棚に追加
新学期が始まって間もなく、文化祭の準備が始まった。
あたしは部活にも入ってなくて、クラスの模擬店の準備に参加した。
小宮くんや運動部の元田くんも主にクラスを手伝ってる。
「じゃあ女子は帰ってよーし。一人で帰るなよー。仮にも女子高生なんだからー。」
クラスの模擬店が主になる男の子達がそう言って女の子達を帰してくれる。
あたしも言葉に甘えて鞄を肩に掛けた。
靴を履いたところで、携帯がないことに気付く。
女の子達に先に帰ってもらって、あたしは教室へ駆ける。
「…さんは…無し。」
「青木さんはありだな。」
教室に近づくほどに聞こえる声と、内容をはっきり捉える。
「狭山さんは…つーか高田さんとどうなんだよ小宮。」
「どうって…」
「すげーメールしてるらしいじゃん。それに高田は小宮のこと好きだよな!」
「……」
小宮くんは何も言わなかった。
あたしは教室に入らず、携帯も机に残したまま帰った。
好きじゃない
好き
どっちでもいいから、小宮くんの気持ちを聞けたら楽になれたのに…
お風呂に浸かりながら、あたしは彼の無言の意味をずっと考えていた。
明日からどう接したらいいかなんて心配した。
翌朝。
上履きに履き変えていると、後ろにいた小宮くんから挨拶がもらえた。
「はよ。」
そう、あたしが勝手に立ち聞きしたんだから、それが当たり前。
昨夜の心配は無意味に終わると思った。
「おはよう。」
だからあたしも普段通りに振る舞おう。
そうして彼の顔を見た時だった。
小宮くんの少し戸惑うような顔。
一瞬にして遠くから見ていたあの頃に戻される。
彼はそんなあたしに気づきもしないのか、それとも敢えて気付かないフリをしたのか、元田くんと行ってしまった。
あたしもその後ろからゆっくり教室へ向かう廊下を進む。
教室の机にはちゃんと携帯があって、あたしはそれを開いた。
新着メールはなかった。
毎日メールをやり取りしていたのに、一晩置き去りにされたあたしの携帯は前日と何も変わりなかった。
小宮くんはみんなの前ではあんな顔を見せない。
授業も手に付かず、あたしは彼をずっと見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!