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思いもよらない出来事が起こった。
入学式から三ヶ月が過ぎていて、席替えによって机も離れてしまった小宮くん。
それまで以上に、あたしは彼を見るだけになってた。
「おーっ!? 小宮、携帯持ったん?」
「あー。でもな、メモリが少な過ぎんだよな。」
昼休みの教室に、彼の声が響く。
あたしはそのほろ苦く甘いメロディーみたいなビターボイスを耳に入れながら、仲良くなった女の子達とお弁当を食べていた。
「だからー。携帯持ってる奴、番号交換しよーぜー!」
あたしは思わず椅子から立ち上がってた。
「タカちゃん?」
「どうしたの?」
みんなはそんなあたしを不思議に思って、衝撃によってこぼれたお茶を拭いてくれてる。
「携帯持ってる奴いねー?」
教室内にはあまり携帯を持ってる人がいないみたいで、彼の元へ行く人は少ない。
あたしは謝りながら机を拭くけど、早く行かなきゃって思って、余計にまたこぼしたり…。
「いないかぁ…」
耳に入る声は諦めたようにボリュームを下げた。
あー…間に合わなかった。
ようやく拭き上げて顔を上げた時には、彼は携帯を閉まっていて、あたしはちょっと落ち込みながら、ハンカチを洗いに廊下へ行ったの。
「あれ? 高田さん、それストラップ?」
「う、うんまぁ。」
教室に戻ったあたしのポケットを、元田くんが指さした。
「おい、小宮まだいんぞ。」
彼はそう言ってあたしを呼ぶ。
無視するのも変だし、とりあえずあたしは小宮くんや元田くんの座る机のとこまで行って、だからって自ら携帯出すわけでもなくて、次の指示を待った。
「赤外線、できる?」
小宮くんは携帯を開いて、あたしに向ける。
焦りながらも携帯を取り出して、赤外線受信モードにして彼に向けた。
彼の情報が、あたしの携帯に流れ込む。
「サンキュー、サンキュー。」
あたしに軽く手を上げて、小宮くんは携帯をしまった。
そう、これはただの友達募集。
何も期待に繋がらない、繋げてはいけない偶然の出来事。
小宮くんが携帯を持って、たまたまあたしも持っていて、たまたまストラップが元田くんの目に止まっただけだから。
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