携帯電話

3/3
前へ
/19ページ
次へ
それから何日も何日も、あたしは夜になると携帯を眺めた。 手につかない課題が溜まる。 秘める想いも募って行く。 発信ボタンを押せば、たぶん小宮くんは出てくれると思うけど… あたしは話すことも見つからないで『なんでもない』って言っちゃうんだろう。 メモリには、小宮くんの名前と携帯番号。 それに誕生日や血液型まで登録されてて、あたしは少し笑った。 だって、携帯のプロフィールに自分の情報入れておくなんて、ちょっと無用心だよ。 小宮くんのイメージが、少しだけ軟らかくなる。 でもそのあとに『好き』って波が押し寄せて、苦しくなった。 なんて言えば、届く? 『好き』と伝える前に、もっとあなたを知りたいんです。 『俺の何を知ってるの?』と言われるのは怖いから。 せめて『友達』区域に入りたい。 小宮くんのことを知りたい。 今はまだ、彼を知らな過ぎて遠いから。 「それ、逆にメールしないの変だよ。」 まだ高校の友達には、彼を好きなことは言えてない。 誰かも同じ想いを抱いていたら、なんかそれだけで負けてしまいそうだから。 「早くステップ踏んどかないと、他に取られちゃうよ?」 励ましなのはわかる。 でも、あたしにはまだ何もない。 クラスメイト以上の資格なんてない。 それに、まだ高校もあのクラスも始まったばかりだもん。 良くない方向にすすんじゃったら、それだけであたしは辛くなる。 でもやっぱり、友達の言葉は重くて。 あたしは毎日彼の姿を目で追う。 彼女ができたらどうしよう。 彼が見上げる窓の外。 そこには夏が待っている。 あたしからは見えないや。 今、あなたはどんな空を見てる?
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加