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「ねー恋次、お願いっ。」
またあの目だ。
俺が弱いの知ってるくせに。
「…んなこと言ったっておまえ、俺まだ書類こんなにあんだぜ?」
「だって今食べたいんだもん、たい焼き!疲れたらお腹空いたのー!」
仕事中にも関わらずこいつはなかなか自由なやつだ。ま、つまり自己中。そして俺限定。
「ねー?
恋次も食べたいでしょ、あそこのたい焼きすんごい有名なの。きっとすんごいおいしいよー!」
そんでこの目!
少し潤んだ大きな瞳で、一直線に俺をとらえる上目遣い。いつも頼み事があると決まって、下から伺うように俺の顔を見上げる目が俺の理性をぐらつかせる。
そんな目で見られたら断われないって分かっててやってやがる。
これが俺だけに向けられた視線だと思うと、理性が自尊心を一瞬でぶち壊しちまう。なんて弱い俺の自尊心…
「分かった分かった。
今のきりついたら行ってくっから。」
「やったー!」
結局いつも俺が折れるはめになるわけだ。
数日後の執務室。
「ねっ、恋次!
お願いがあるの!」
「ったく、今度はなんだ?大福か?羊羹か?悪いが今日だけはマジで忙しいの俺。」
目の前に重なった書類の山を指差す。あいつの目を見たら終わりだ、書類に集中しろ、なんて心で唱えながら止めていた手を再び動かす。
「ねっ、ねーってば、
めちゃくちゃ大事なことなの!一生のお願いっ!」
袖をちょいちょい引っ張ってきやがるから筆がぶれて字が書けやしねえ。
「おい、引っ張るなって。
大体おまえ、こないだも一生のとか言ってただろーが。おまえは一生が何回あんだよ。」
「今日のはほんとに一生のお願いなの!もう絶対ないからー、ねっお願い!」
「言ったな、今の忘れんなよ!」
仕方なく振り向くとやっぱりあの目で。
でも今日はなんかいつもより可愛いっつーか、目力っつーか。なに企んでやがるんだ?
「あのね、
あたしの彼氏になって?」
今にも泣き出しそうなくらい潤んだ瞳と桃色の頬に、俺の理性は1秒で吹っ飛んだ。
「…へ?」
「なってくれる?」
考える間もない、もちろん答えは一つ。俺がこの目に弱いって知ってるだろ。
「…はい。」
全く自己中な女だ。
まあ、俺限定で…だけどな。
*END
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