A SNOWY SKY/冬獅郎

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忙しさに追われあれ程騒がしかった隊舎も、終業時間を過ぎた今となってはぱったり音もやんで。 松本が茶を啜る音がやけに遠く響く、そんな静まり返った隊首室。 「はあー、疲れたー! たいちょー 今日はもう仕事終わりましたし、パアーッと飲み行きましょうよー!」 思いっきり伸びをする呑気な松本を呆れ顔で睨んでみる。 「何が疲れただ! おまえは今日ほとんど、そうやって茶飲んでただけだろうがーっ! …ったく…。」 毒づく元気も最早残っていない。 松本の分まで書類を片し、疲労はいつもの倍。久々の忙しさにしては自分の体力不足に疑問が浮かぶ。 椅子に座ってばっかじゃやっぱ鈍っちまうな。 笑いでごまかしながら、いつの間にか松本はいなくなっていた。 終業時間を30分程過ぎたところで終いとなり、身仕度を始める。 誰もいない隊舎は物寂しい。 足音さえこだまして空気が張り詰める。 ふと、まだ明かりの灯った部屋があった。 「おい、まだ誰かいんのか…?」 すっと扉を開けると、思わぬ相手に驚きと少しの喜び。 「あっ、隊長! 今お帰りですか!松本副隊長がまだ残ってらっしゃるって教えて下さったので、私待ってました!」 赤らんだ頬で笑いかけてくるそんな姿で、さっきまでの疲労は頭から消え失せた。 「ご一緒してもいいですか?」 おどおどと尋ねてくる上目遣いに心拍数が徐々に上がる。 「ああ。」 俺が言った一言一言にこいつはいちいち可愛らしく反応するんだろう。いつもどこか嬉しそうで、 外へ出ると気温の低さを改めて体感した。芯まで冷えるとはきっと今の状況をいうんだろう。 「…寒くねえか?」 一瞥すると、林檎みたいに真っ赤な頬で手を擦り合わせて少し後ろを歩くおまえがいて。 その右手をすっと握ると思った以上の冷たさで、心配で顔を覗く。 「隊長の手、あったかいです。」 はにかむ笑顔もまた可愛くて、照れ隠しに空を見上げる。 澄んだ夜空にそれは小さく踊り舞った。俺の気持ちを表すように… 「あ、雪…。すごく綺麗ですね、 隊長と初雪見られて嬉しいです!」 雪に向けられた視線が早くこちらへ戻ってはこないかと、そっと見つめたその横顔がどれだけ綺麗だったかは─ 俺だけが知ってればいい。 *END
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