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私だけが知っている。
マユリ様が本当はとても心のお優しい方だと。
「君はバカなのかネ!?
あんな戦闘対象にもそぐわない下等虚にやられるとは…
呆れて言葉も出ないヨ!」
虚討伐より帰還した後、必ずといっていい程マユリ様にお説教を頂く私。
自分でも自覚しています。
運動音痴で機転も利かず、危険な状況に陥っても逃げることすらままならない。
そのせいで体中、傷・傷・傷。
向いてないんです、この仕事…
痛々しいくらいの包帯やらガーゼにぐるぐる巻かれた私は見るも無惨な姿。
自分の情けなさには、涙さえ枯れ果てため息しか出て来ない有様。
死神…
辞めようかしら…
「さっさとこれ飲んで治すんだネ!
全く!世話の焼ける部下を持つと苦労するヨ!」
怒りながらも私に薬を差し出すマユリ様。
青色をした透明な液体の入った小瓶。マユリ様が作られた、いわく霊圧の回復を促す薬らしい。
「…ありがとうございます。」
「もういい、
早く持ち場に戻るんだヨ!
私は忙しいんだヨ、君の相手をしてる暇すらないというのに…」
ぶつぶつと一人呟きながら、マユリ様は研究室の奥へと消えていかれた。
この間隊員と話していた時のこと─
そもそも自分の利益にならない人間は即辞隊させるくらい冷酷な人なのだとか。
時たま怪しい薬を開発しては部下を実験台にする恐ろしい人でもあるそうで、
マユリ様の話をする隊員達はそろって顔色を悪くしていた。
そうだというのに、私は辞めろとも言われずいつもマユリ様の薬に助けられている…
そして皆、私はマユリ様に気に入られているのだと気の毒そうに言った。
突如心臓が締められるような痛みに襲われた。
苦とは思わない痛み。
虚討伐の後の辛い痛みじゃない…
きっとマユリ様の薬でさえ治すことが出来ない痛み。
でも、治せるのはマユリ様たった一人。
私、マユリ様に恋をしてしまったみたいです。
*END
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