FIRST KISS/一護

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「なんで一護が ここにいんのさ。」 テレビが一番良く見える、真ん前のソファはあたしの特等席で。 今その特等席には、オレンジ頭の大男が陣取っていた。 「おばさんが飯食ってけって。」 ぶーたれた顔で仕方なしに、やつの右隣りに座る。 テレビを見ながらテーブルに置かれたみかんに手を伸ばす。 テレビとみかん、何たる至福のときなの。…まあ、今日は右サイドなテレビ画面だけれども。 そんな風に幸せをかみしめるあたしだったのだが。 「俺にも剥いてよ。」 「はっ、自分でやれよ。」 「いいじゃん。」 にかっと細めた目と白い歯が眩しくて。 なんでだろう、この笑顔に勝てないあたし。そんなかっこよく微笑まれたら何でもやっちゃうわよ。 「はい、これ。」 「さんきゅ!」 またその笑顔! だから反則だってばさ! 一人で悶え苦しんでいると、何やら軽快なリズムがテレビから流れてきた。 『恋のときめきキャンディーっ ふわっと広がるキスの味! 新発売、ファーストキス!』 そういえばこれ、駅前のコンビニで売ってるの見たな。 キスの味って… そもそもキスに味なんてあるのかしら。ファーストキスもまだなあたしには分からないけど… 「…あのアメ、今度買ってみようかな。」 心の呟きがいつの間にか、声に出ていたわけで。 「…。」 ちらっと一護の様子を確認するが、先ほどと大差なくテレビに夢中な彼。 ほっ危ない、絶対一護に聞かれたらバカにされるんだから。 聞かれてなくてよかった。ってか何恥ずかしいこと言っちゃってんのあたし。 気付いていない一護に胸を撫で下ろし、再びテレビに集中する。 「試してみる?」 「えっ…」 振り向くや否や、あっさり唇を奪われた。 なんなの、今なにが起こったの! 「何味だった?」 にやりと笑みを浮かべる彼の思惑を探ろうと必死で頭を回転させるのに、たった今起こったことと彼のはにかんだ笑顔であたしの頭はショート寸前。 「えっ…え、 みかん味…?」 まぬけな顔で必死に答えたあたしに、今度は優しく微笑んでくれる一護。 「ばーか。」 どうやらあのアメは、買わなくて済んだみたい。 *END
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