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「丁度良い。絶好のタイミングだ」
「しかし妙ですね……定時報告の時間には、まだきていない筈ですが……」
少しばかりの疑念を払いのけ、受話器をとる。
「はい…………そ、そんな!!実験はっ…………はい。……分かりました」
静かに受話器を置いた男だが、その手は微かに震えている。
突如として張り詰められた空気。
男の怒りや訝り、悲しみさえもがひしひしと伝わってくる。
「ど……どうしたのですか?」
「……上層部の方針変更により、この計画は中止になり、全てのデータ、器具、その他の被献体は廃棄処分となるそうだ…」
「そんな………それに被献体って……"彼"はどうなるのですか!成功したということは、もう、生きているんですよ!?」
カプセルの中にあるそれを指して男が訴えかける。
「今からでも成功の報告を」
「無駄だ。上が知れば、この子は殺される」
「そ、そんな……」
「死なせはしないさ……この子は、親のところに帰そう。勿論、上には報告をしない。このことは他言無用だぞ!」
「分かりました…」
二人が見つめる先には、カプセルに入り、まだきちんとした人の形になっていない胎児が浮かんでいた……
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