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人形の顔が輝いた。
今にも飛びついてきそうなので、触らないように必死だった。
「ありがとうございます!!」
その言葉を何度も繰り返す。
よほど嬉しかったのだろう。その表情を見ると少しだけ何故か救われた気がするが、バカなほど安請け合いしたと思った。
これから彼女はこの人形の未来への責任を背負う事になる。
たとえ祟りがなくともこの人形の未来は彼女が握っているのだ。
幸せになるも、不幸になるも。
…私などに務まるかな…。
そんな不安を抱えながら、まずは大事な事をしなければならないと思った。
「私は愛美と申します。…あの…お名前は?」
人形は首をかしげた。
「名前とは何ですか?」
一般的な人間の仕草を大体知っているのに、中途半端な知識量であった。
「あなたを識別するものです。私の事は愛美とお呼び下さい。」
何だか男女逆の執事にでもなったような愛美の口の聞き方であった。
「名前というものがないと人間は相手を認識出来ないのですか?」
それはそうだ。どこに住んでいたかわからないが、人間の数はかなり多い。
外見の特徴だけで判断するのには無理がある。
「そういう訳ではありませんが、それが人間の習慣なのです。」
なぜ人間が名前というものを使うかなど考えた事はない。
それが当たり前だったから考えもしなかった。
ゆえによくわからない事をちゃんと答える自信はなかったが、質問責めにされる事はなかった。
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