悪ノ娘ノ物語【一】

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  母の愛を知らず。 父の愛を知らず。 手を差し伸べる者は居らず。 理由を知る術等 あるはずもなくて。 頼れる者等 誰独り居ない広い王宮で、 私達にはお互いしか信じられる者は居なかった。 夜になると私達は二人手を取り合って互いを守るように眠る。 時々、私達は独りづつにされ、私は帝王学等の国を治める為の知恵を叩き込まれた。 礼儀作法。言葉遣い。テーブルマナー。 立ち振る舞いの何たるかを容赦無く。 その間片割れは何をしていたかと尋ねれば、お勉強をしていたと言う。 後で知る事だけれど、私が英才教育を受けている間片割れは、空き部屋に独り遺されてただじっと窓の外を眺めて居ただけだったそうだ。 彼が私に嘘を吐いたのは、 ただ、 心配させまいとしたから。 彼が私に嘘を吐いたのは、 この時の一度だけ。 やがて父王が病に倒れ、 帰らぬ人となった時、 運命の歯車は回りだす。 チクリと胸を刺すような嫌な予感がしたのを今でも良く憶えている。 『父王が崩御なされた。これからこの黄の国は王女。貴女が治めるのです』 この時私達はまだ六つ。 悲しい気持ちは少しも沸かず。 何処か遠い所の誰かがひっそりと逝ってしまった程度の感慨。 形式をなぞるだけの心の無い戴冠式が済んだ後。 部屋に戻ると片割れの姿は何処にも無かった。 ドクリと心臓が跳ね上がる。 サッと血の気が引いて逝く。 振り返り、ゆっくりと口を開く。 『彼が居ないわ。何処に要るの?』 『この国の王位を継承されたのは貴女だけ。王家の血筋は一人きりで充分。故に、弟君は既に亡き者に』 誰も居なくなった だだっ広い豪華な部屋に。 私は独り。 新王誕生を祝う 耳鳴りのように響く教会の鐘。 そういえば、 私達が産まれた時も 鐘が鳴ったそうだ。 彼は居ない。 私は独り。 この広い広い牢獄のような王宮に。 彼は居ない。 私は独り。 誰からも愛される事の無いこの閉ざされた空間に。 私は独り。 私は独り。 私は独り。 私は独り。 独り。 独り。独り。 独り。独り。独り。 独り。独り。独り。独り。 独り。独り。独り。独り。独り。 独り。独り。独り。独り。独り。独り。独り。  
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