プロローグ

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プロローグ

 どんっと、何かがぶつかる様な音が聞こえた。  初めはただ軽い違和感を感じただけだった。次の瞬間、鋭く痛く、抉る様に痛い、ただひたすら痛くて、痛い、痛い、イタイ……いや、痛いとか言う次元を越え。 「――な、なんで……?」  力無く呟いた。全ての思考、痛覚、聴覚、感覚は遮断され、ただ一点。  ぽっかりと空いた胸に視線だけが釘付けになる、コンマ数秒――何が起こったのか理解するよりも早く、おれは逆流する血液を大量に吐き出した……。  血の気を失った頭で、見上げた先には奇妙なオブジェ……同じく何が起こったのか理解出来ないままドクドクと脈打つ心臓が見えた。  それに気付いて初めて、おれは心臓を一突きにされ抉られたんだと気が付いた。  先程からの違和感の正体だってそうだ、よくよく考えて見れば普通腕が胸から生える訳ないんだから……。 「瀬貴ーーっ!!」  朧気な意識の中、何処かで女の子の叫びが聞こえた気がした。  悲痛な叫びで、無い筈の心臓が締め付けられる様な気がしたが、そんなの今のおれには関係ない、ほっといてもこのまま死ぬのだ。  冷静に見て生きていられるのも残り僅かだろう、心臓を抉られ死なない人間なんていやし無いんだから……。  何でおれがこんな目に、そう思うと自然に涙が零れた。  ――死にたくない、死ぬのは嫌だ。  死は悲しみしか生まない、死にたく……ない。だけど。もう、駄目みたいだ……。  手に力が入らない、先程からものすごい睡魔が襲う。  まだ、死ぬ訳にはいかない……ぐったりと力の入らない震える腕を、無理矢理に心臓から生える腕に添える。 「お……おき……みやげだ、ありがたく……思え……よ」  途中、奴は腕を抜こうと抵抗したが既に遅い。  引き抜かれたと共に、最初に吐血した量とは比べ物にならない程の血が噴出した。  完全に血液を失い。もう、何も聞こえないけど奴の驚く様が想像できて……無理矢理に笑った。  きっと、この時おれは上手い事笑顔なんて作れなかったと思うけど、きっと満足したと思う。  少しは、“あの少女”の役に立てたかも知れないと言う事実に……。
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