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少し昔、何年か前のおはなしです。
あるところに、一人の少年がいました。
少年は、お母さんと二人でくらしていました。
お母さんはお仕事がいそがしくて、夜にしか顔を合わせることはできませんでした。
そして、お母さんはお仕事にいくとき、決まって少年に言うのです。
「ウサギさんといい子にしててね。そしたら、お母さんも早く帰ってくるから」
少年はいつもウサギのぬいぐるみといっしょにいい子にしてて、お母さんの帰りを待ってました。
そしたらお母さんも、帰ってくる時間がだんだん早くなってきました。
ある日のこと、お母さんがお昼に帰ってきました。
少年は喜びました。お母さんがお昼に帰ってきてくれたのははじめてでしたから。
でも、お母さんはお母さんのつれてきたお客さんとお話ばかりしていて、少年と遊んでくれません。
少年がウサギのぬいぐるみといい子にして待っていたら、やっとお母さんが少年のほうにきてくれました。
少年はお母さんと遊べる!と思いましたが、お母さんは少年の頭に手をおいてかなしそうな顔で言いました。
「ウサギさんといい子にしててね。そしたら、お母さん迎えにいくから」
少年はなにを言われているかわかりませんでした。
わかっているのは、また、ウサギのぬいぐるみといっしょにいい子にしていなきゃいけないことです。
少年はお客さんにつれていかれることになりました。
お客さんのお仕事は、けんきゅういんでした。
少年はけんきゅういんたちにボロボロのふくをきせられて、いっぱいいたいことをされました。
おなかを切られました。顔も切られました。血をとられたりもしました。ちゅうしゃもされましたし、苦いものも飲まされました。
それでも少年はいい子にしてました。
少年と同じく“もるもっと”とよばれてた子たちがにげようと言ってきても、うごかなくなっちゃっても、少年はいい子にしてました。
ウサギのぬいぐるみといい子にしてたら、お母さんがむかえにきてくれると信じているからです。
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