動きだす二人の時間

5/33
前へ
/263ページ
次へ
翌日、シャスタは海にいた。 海辺を歩く彼に声をかける女性は数知れず、断るのもいい加減うんざりしていた。 「すみません、私はこの通り結婚してますので……。」 左手の指輪を見せる。 これには彼女だけでなく、遠くからチャンスを窺っていた女性達にも効果があった。 「これで一人になれる……。私が声をかけて欲しいのは貴女なんですよ、シルビア……。」 呟きながらシャスタは歩き始めた。 いつの日か巡り逢えるであろうシルビアを思い、微笑みを浮かべて彼は歩いた。 だが彼女は現れない。 今年も現れないのかと、ため息をつく。 砂浜に腰を降ろし、波打ち際を眺めた。 愛しいシルビアの姿がフラッシュバックする。 笑いながら裸足で歩く彼女。 綺麗な貝殻を見つけ、嬉しそうに拾って見せるシルビア。 そんな姿が思い出され、自然と笑顔になる。 だが……悲しみが襲う。 「逢いたい……。早く貴女に逢いたいです……。」 涙で視界がぼやけた。 そのぼやけた視界の中をシルビアが歩いている。 貝殻を拾い、自分に見せようと向かって来る。 その彼女は微笑んでいて……。 .
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加