プロローグ

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プロローグ

「もう…何も見えないのよ」 彼女は白いベッドの上で泣きながら言った。大粒の涙を流し、僕を手探りで探していた。 顔はやつれ、ほとんど皮と骨の状態になっていた。髪も抗がん剤投与の副作用によって全て抜け落ちている。                 「咲と僕は心で繋がっている」 咲(さき)、彼女の名前だ。気休めにしかならない言葉しか言えない僕。僕を探している彼女の手を握りしめ、ひたすらに咲を見続けた。               「涼の顔だってもう死ぬまで見る事ができないのに…私はもう死んでしまうのよ」 涼(りょう)、僕の名前だ。そして、咲は盲目である。それだけでない。盲目以上に、医師の余命宣告期間をすでに延長している。
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