二人の想い

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下手ではないのだ。むしろ誰が見ても上手と言える作品だった。しかし、周りの風景がほとんどないのが気になった。道路も、草も、立ち並ぶ家の町並みも、全部ぼやけている。他のページをめくっても、素晴らしい色合いなのだがぼやけているため何を書いたか判断が出来ない。しかし美しい色使いはどれも素晴らしく、プロ顔負けではないかと思うほどだ。 「私、見えないんです」 やはりと言うか、目が悪いのはわかって居たけどまさかここまで悪かったとは思いもよらなかった。 「これが君の見ている風景なの…?」 僕は恐る恐る聞いた。万が一そうだとしたら、識別能力は皆無に近いのではないかと思うほどだ。 「いえ、やはり遠いものはぼやけますが、今はまだ見える事は見えます。現にあなたにも気付きましたし。」 なるほど、納得だ。しかし、今はまだとはどういう意味なのだろう。 「そういえばまだ名前聞いてなかったね、僕は涼っていうんだ。早生まれでつい最近20歳になったね。君は?」 「私は、咲と申します。今年で21になるので、一つ上みたいですね」 年上とは思わずタメ口を聞いてしまっていた。人は見かけによらないものだ。 「そういえば、さっき脳外科から出てきたけど、最近事故にでも合ったの?」
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