二人の想い

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…彼女の表情が一変した。空気が重くなったような、聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。僕は話題を切り変えようと、とりあえず何か元気に声を出した。 「そういえ…」 「ガンなんです。」 「え…」 硬直した。言葉が何も出てこない。その場が完全に凍り付き、時の流れ全てが逆流したような、とても重い雰囲気だった。              「私…ガンなんです」              咲はもう一度言った。静かに、ただただゆっくりと。              「脳腫瘍で、余命宣告も受けています。あと三ヶ月、らしいです。」 たんたんと語る彼女は、表情を変えなかった。僕は今どんな顔をしているだろう。彼女に何て言えば良いのだろう。何もかもが静寂し、全ての時が止まったようだ。 「恐らく、視力もいずれは無くなり、ベッドの上での生活を余儀なくされるでしょう。」 彼女は、何でこんなに冷静に入れるのだろう。死ぬのが怖くないのだろうか。僕は何も言えなかった。ただただ彼女の話しを呆然と聞いていた。彼女は暗い話しをしてごめんなさいと良い、連絡先の書いた紙を僕に差し出し帰っていった。何も言えない。僕とは見ている世界が違う。 どうして受け入れられる?死ぬのが怖くないのか?どうして僕に話した?どうして僕に連絡先を渡したのだろう。 全てがわからなかった。気付いたら自宅にいた。どのような経路で帰ったかも覚えていない。時計の針の音だけが脳に響く。ただ呆然と、彼女の言葉だけを繰り返してた。
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