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「あの」
彼女の声を聞いた最初の言葉だった。透き通ったよく響く高めの声だった。
不意に思いもよらず声をかけられた僕は、どうして良いかわからず、ただただ彼女の顔を見返していた。
「最近よく来られてますよね、もしかして私お邪魔でしたか?」
彼女は持っていた筆を置き、心配そうにこちらを見ていた。
距離もあまりない。顔の表情までしっかり読みとれた。心から心配してくれてるような、そんな表情な気がした。しかし、一つ腑に落ちないのは彼女の視線だ。どこか僕を捕らえきれてないような、おぼつかない視線だった。
「いえ、別に」
僕はそれだけ言って再び歩き去っていった。 [結構…可愛かったな]話し掛けてくれたんだから、何か言えば良かったと自分ながら情けない後悔の念で覆われた。
僕の性格はよく言えばシャイ、悪く言えば臆病で、女の子と面と向かって話せないのだ。
もう来るのは止めよう。もう一度自分に言い聞かせ、そのまま立ち去った。
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