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「よし。出来た。ちょっと味見してくれ」
僕は束になって置かれたスプーンを1本取り、出来立てのコンソメスープに突っ込み、口に運ぶ。
「どうだ。今回はいいと思う」兄さんは顔をしかめて聞いてきた。
「ああ。いいね」と微笑みかける。
上出来。兄さんの作るコンソメはいつも上出来だ。
「そうか」と兄さんは素っ気なく言い、ディナーの下準備を始めた。
このレストラン《ソレイユ》はサービス担当の僕と、キッチンにシェフの兄さんと、見習い1人――マナブという若者だ――に客席18の小さなお店だ。
それでも、満席になると厨房にあるオーブン2台とガス3口もあっと言う間に満員御礼予約待ちになってしまう。
そうすると2人では回らなくなるから、今のうちに準備出来るとこはしてしまうって訳だ。
しかし、今日は予約無し。平日だからおそらく暇だと思う。良くても1、2組の。
そう、良くても。閑古鳥なんて見たことも無い鳥が鳴いている訳だ。
いつものパターンさ。
兄さんはマナブを煽るように口撃を飛ばしていた。
「あまり細かくしすぎるな。それじゃあ、ニンニクの味しかしなくなっちまう。さあ、切って、切って、切って。あと、30分で開店だ」マナブは、その名前通りよく勉強するし、素直だし仕事も出来る。
だが、見習いは怒られ、指導されるのも仕事の内だ、と言うのが兄さんを含む料理人の持論らしい。
だが、指導してやらねばならないのは兄さんの方だ。
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