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本当この笑顔はいつもながらに儚い───笑っているようで泣いているよう。
「本当みんなお人好しだよね」
「え…」
「あんなん…言わせときゃいいのに」
再びフェンスの向こう側を見つめながら彼はぽつりと呟くように言った。
「空君……」
「何で吉田は俺なんかといっつも一緒に居るんだろうって思ってた」
彼の話を黙って聞く事しか出来ない。
いや違う
───何て言葉を掛けていいかわからない。
「漸く腑に落ちたよ」
そう言う彼が何だか何処かに消えてしまいそうな…何だかそんな錯覚に陥って、私は彼を後ろから抱きしめた。
勿論彼はまた驚いたように振り返る。
「宮野先輩…?」
「そんな人ばかりじゃないよ」
「!」
いつもの生意気で強気な空君とは打って変わったその姿に、何だか涙が出そうになる。
「井野君や依ちゃんは違うでしょ?空君のことちゃんと解ってる人だってたくさん居るから…だから───」
「…………うん」
それ以上は言葉に詰まって何も言えない。
そんな私の心情を知ってか知らずか彼はもう大丈夫とばかりに私の手を数回軽く叩いた。
ゆっくりと彼を解放すると大きな瞳と視線がかち合う。
「ありがとう…先輩」
気恥ずかしさから視線を下に落とした──のも束の間、唇にあたる柔らかな感触。
最初こそ理解出来ずにいたけれども少し遅れて気が付いた。
キスされたのだと───。
彼は気まずそうに視線を下降させてからゆっくりと立ち上がり、私を置いてその場から去って行った。
「な…何だったの?」
彼の意図が理解出来ない。
頭の中は真っ白のまま午後の授業を受けた。
窓際の一番前の席が私の席。
まともに授業なんか受けれる筈も無くぼんやりと校庭を眺めれば、これもまたぼんやりと一人でいる吉田君が目についた。
近くに空君の姿は無い…と言うか空君自体が居ない。
また中抜けかな?
空君の事で頭がいっぱいじゃない。
どうしてくれるのよ
バカ空────…
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