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「大丈夫ですか?」
「……うん、ありがとう」
そうお礼を言うと女の子は首を左右に振ってからにっこりと笑った。
「お礼は私じゃなくて空先輩に言ってください。私は何にもしてませんし」
この子も本当に良い子だって心底思った。
そんな中軽い足音が辺りに響き渡り、誰かが此方へと向かって来ている事が解る。
瞬間的に私も彼女も身を強ばらせたけれども角から顔を覗かせた人物は良く知った顔で。
「大丈夫?」
安否の心配をするその優しい声色と傷付いた彼の顔を見て涙が頬を伝った。
もうダブルパンチよ。
デート現場は目撃しちゃうし。
なんとも言えない感情に苛まれ私は涙が止まらなかった。
「怖かった?ごめんね、直ぐ助けらんなくて」
空君が謝る事じゃない───けど涙が止まらない。
そんな私を彼は優しく包み込むように抱きしめて頭を撫でてくれた。
「もう大丈夫だよ」
物凄い安心感を与えられた直後ハッと我に返り彼を押して距離を取る。
「か、か、彼女が見てるじゃない…!な、何するのよ!」
物凄いひねくれ者だな、と自分の事ながら思った。
「え?あぁ…みぃ、お前彼女だって」
「え、彼女に見えます?ホラ、空先輩!やっぱ私と付き合うべきですよ」
「俺ガキンチョに興味ねぇの。お前じゃ起たんわ」
サラッと下ネタを披露する辺り空君っぽい。
「ひどーい!色気ムンムンなのに!」
「え、どこが?」
そんな二人の会話に思わず吹き出してしまった。
あぁ…なんだ。
「友達?」
「だから言ってたじゃないッスか」
どことなく不機嫌な彼に心の中ど少し反省しつつ、殴られたのであろう少し腫れている彼の頬に手を伸ばした。
「ごめんね。ありがとう、空君」
アナタが居て本当に良かった。
「……別に。ホラ、帰るよ」
いつもながらに素っ気ない彼の反応も今日は何だか格好良く見えてしようがなかった。
「にしても凄いですね、空先輩」
そう言ったこの子は一年の愛原ミミちゃんと言うらしい。
「何が?」
「何がって…」
彼女の言い分は正しい。
だって帰り道、先程の5人が未だへばって倒れていたのだから。
頬に傷一つ作っただけで5人をいとも簡単にやっつけてしまうとは……
「恐るべし、八重沢空」
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